2月16日、横浜市鶴見公会堂にて、鶴見区歯科医師会主催の公開講座「初めてのユマニチュード®️」が開催されました。
参加者は約300人。会場には歯科関係者だけでなく、看護師や介護士といった医療関係者、一般の方も来場され、会場はほぼ満席でした。
本記事では、講演会の様子をレポートしたいと思います。
新しい認知症のケア「ユマニチュード®️」とは
「ユマニチュード®️」は、体育学を専攻する二人のフランス人によって作り上げられた35年の歴史を持つケア技法。
認知症患者だけでなく、ケアを必要とする人であれば誰にでも利用できます。
現在フランス国内では、400を超える医療機関や介護施設がこの技法を導入しています。
また、各国に国際支部が存在し、2014年に6番目の国際拠点として日本支部が誕生したとのことです。
(参照:ユマニチュード®️とは?-ジネスト・マレスコッティ研究所 日本支部)
講師の本田美和子先生は、国立病院機構東京医療センターの総合内科医長を務める医科の先生。
そのかたわら、「ユマニチュード®️」に関する研究や教育を行っている、ジネスト・マレスコッティ研究所の日本支部代表として活動しています。
具体的な方法としては、「みる」「はなす」「さわる」「たつ」をキーワードにケアを行います。
ここで重要なことは、ケアの対象となる相手に対して、常に“あなたは大切な存在である”というメッセージを送ることだといいます。
今回の公演では、ケアを受ける人、する人の間で複数のコミュニケーションの要素を同時に行う、「マルチモーダル・コミュニケーション技法」についても紹介されました。
驚くべき「ユマニチュード®︎」の効果をご紹介
つづいて、さまざまなユマニチュード関連の研究が紹介されました。
長期療養施設における入院患者の認知症行動心理症状の変化については、認知症の診断で使用されている「BEHAVE―AD」という指標を用いた対照実験について解説されました。
こちらの指標は怒りの表情や態度などが、感情や身振りに現れるかどうかを評価する指標。
(参照:認知症の診断-日本神経学会)
ユマニチュードによるケアを実施した「ユマニチュード群」と通常のケアを行った「コントロール群」を比較すると、前者では有意に心理症状が低下していました。
さらに、ケアを行う職員への影響についても触れており、ユマニチュードを実施した施設の職員は、離職率が有意に減少するとのこと。
また、ICU患者のせん妄や、身体抑制具の利用、向精神薬の服用についても、ユマニチュードによるケアの前後で有意に減少する結果が出ているそうです。
患者さんに関わるすべての職員がケアの意識を持つ必要がある
本田先生はユマニチュード研修について、直接ケアを行う医師や看護師、介護士だけでなく、ケアに関わる調理師や清掃スタッフ、事務職員なども含めて受講する必要があると語りました。
フランスのある病院では、約190万円の研修費用をかけて全職員のユマニチュード研修を実施したところ、その一年後に、約3,800万円の医療費削減に成功した事例も。
その内訳の多くは向精神薬の削減によるものでだったそう。
「ケアをする人」とは何か?
「ケアをする人」とは、健康に問題のある人に対して以下の3つのことを行う人と定義されています。
- 回復を目指す
- 機能を保つ
- 最後まで寄り添う
最後に本田先生は、“私たちが実際に行っていることと、私たちが大切にしたいことを同じにする必要がある”と強調しました。
たとえば、就寝中の患者さんのオムツを替えたり、意識の有無を確認したりするなど、患者さんが気分を害するおそれのあることはしない。
そういった行動の積み重ねが、患者さんから職員に対する不信感につながるといいます。
講演の中では、認知症の患者さんが「ユマニチュード®️」を受ける前後を比較した動画が流れました。
食事を摂らない患者さん、入浴介護や口腔清掃を拒否していた患者さんが、「ユマニチュード®️」のケアによって、どんどんと自立していく様子を見ることができました。
「ユマニチュード®️」は150ものケア技法から成り立ち、それぞれの具体的な方法については、研修で学ぶことができるそう。
また、YouTube「高齢者ケア研究室」でも、詳しいケア技法についての解説を見ることができます。
(参照:YouTube-高齢者ケア研究室はこちら)
現在日本では、福岡県福岡市が実施している健康寿命促進プログラム「福岡100」の中で、ユマニチュード研修を取り入れるなど、「ユマニチュード®️」に取り組む動きが全国的に増加傾向にあります。
ケアを受ける人、する人の両者にとってよい影響を生み出す「ユマニチュード®️」。
“患者と話すときは目線の高さを合わせる”など、私たち歯科医療従事者にとっても、基本的で取り入れやすい技法が多いです。
超高齢社会を生きる私たちにとって、今後ますます有益なケア技法となるでしょう。