7月16日、オンラインにて「DH勉強会LOL」が開催されました。
こちらは、2017年に歯科衛生士の加瀬久美子さんが設立した歯科衛生士向けのスタディグループ。
「LOL」には「lots of lough=楽しく学ぼう」という意味が込められています。
DH勉強会 LOLでは、“学校では教えてくれない「4つのコントロール」”と題して、歯科衛生士が臨床現場で直面するさまざまな視点を4つのテーマから学ぶことができます。
前回までの記事はこちら
サリバコントロール編
シュガーコントロール編
プラークコントロール編
第4回は、パワーコントロールについて。
それでは、当日の様子をお伝えします♪
歯科衛生士が知っておくべき「力」の影響
新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、今回はオンラインでの開催。
オフラインで受講生同士のリアルな交流ができないのは寂しい反面、今まで参加が難しかった子育て中の方や、遠方の方にも参加していただけるようになりました。
加瀬さんはまず、恒例となっている勉強会のゴールを提示しました。
- 力が及ぼす影響や変化の兆候に気づく目を持つ
- 身体のメカニズムとチェックポイントを知る
- 呼吸や栄養面からもアプローチできる
- 歯だけでなく“人を診る”視点を持つ
ゴール設定があることで、ポイントが明確になり学びやすくなります。
パワーコントロールがなぜ重要なのか?
口腔の健康を守るには、だ液(SALIVA)・糖(SUGAR)・細菌(PLAQUE)・力(POWER)の4つのコントロールが重要と考えている加瀬さん。
ここでいう「力」は、本来“FORCE”という言葉が適切ですが、あえて日本人に馴染みがある「パワー」という言葉で表現しているといいます。
歯の主な喪失原因は、むし歯や歯周病。それについで破折があります。
臨床において歯根破折で抜歯にいたるケースに出くわすことは少なくありません。
しかし、バージントゥースがいきなり真っ二つに割れるということはとても稀。むし歯の治療を繰り返した結果、歯質が少なくなったことで破折を起こすケースがほとんどです。
また、力による影響で、歯質に入ったマイクロクラックからむし歯が発生することもあります。
そのため、力のコントロールにより、歯を失う原因の多くを防げるのではないかというのです。
力と歯周病の関係
力の作用だけで歯周病が起こるわけではありません。しかし、歯周組織に炎症が起きている場合、そこに力が加わることで歯周病の悪化が加速します。
加瀬さんはその理由のひとつに、咬合圧による循環障害があると説明。
圧迫により歯周組織の血行不良が起こり、歯肉溝浸出液の分泌が減少したり細菌への抵抗性が低下、免疫細胞が減少することで易感染状態になるメカニズムを解説しました。
次に、「咬合性外傷」と「外傷性咬合」についての確認をしました。
特定の歯に過大な力が加わることにより、歯周組織が損傷を受けること
外傷性咬合
歯周組織に損傷を与えるような咬合状態
このふたつの言葉は非常に似ているため、学生時代に混同してしまった方も多いかもしれません。
外傷性咬合があるから咬合性外傷がある。つまり、「外傷性咬合」は原因であり、「咬合性外傷」は結果であると説明しました。
ブラキシズムの分類とTCH
つづいて加瀬さんは、力の種類について解説。
力には「外的な力」「内的な力」「生理的機能による力」「非生理的機能による力」の4種類があります。
私たち歯科衛生士が問題にすべき習癖や態癖は「非生理的機能による力」に分類され、今回はブラキシズムにフォーカスをして解説しました。
ブラキシズムには「グラインディング」「クレンチング」「ナッシング」「タッピング」の4種類があります。
加瀬さんはそれぞれの動きや音、そして口腔内に現れる視覚的な特徴について解説し、見極めのポイントを伝えました。
さらに、夜間にフォーカスしがちなブラキシズムですが、昼夜問わずに起こっていることを説明。日中は強い力はかかりにくいものの、軽い力で長時間歯が触れていることから、負担が大きくなるといいます。
そのため、私たちは、夜間だけでなく日中の状況も見過ごすことなく対応する必要があると伝えました。
さらに、TCH (Tooth Contacting Habit)も見逃さないで!という加瀬さん。
TCHとはかみしめや食いしばりと違い、自覚できていない程度の弱い力で上下の歯を持続的に接触させる“くせ”のこと。
1日のうち20分以上、上下の歯が触れている状態が続くようであれば、TCHであるといえます。
細かい作業や、下向きで集中しているときなどに起こりやすくなるため、「うつむいた姿勢で細かい仕事をする機会が多い私たち歯科衛生士も、TCHが起こりやすい環境にあるんですよ」と加瀬さんはいいます。
セミナーでは、TCHと顎関節症や歯周病、偏頭痛との関係などのデータを示し、軽い力でも上下の歯が長時間触れているだけでさまざまな問題が起こりやすくなることを説明しました。
力の影響を知るのに有効な口腔内写真
ここで加瀬さんは、「口腔内写真を撮っていますか?」と受講生に問いかけます。
力の影響は硬組織よりも先に軟組織に兆候が出るため、微細な変化を見逃さないためには、口腔内写真はとても重要な資料であるといいます。
レントゲンを撮影せず歯周治療ができないように、口腔内写真を撮らずに患者さんの健康を守ることはできないと考えている加瀬さん。
定期的なメインテナンスごとに12枚法で口腔内規格写真を撮影し、毎回その写真を患者さんにお見せしているといいます。
また、まずは正常な状態を伝えることで、患者さん自身が異常を見分けることができるようにしているとのこと。
口腔内を客観的に視覚化することで、自分の口の中のことに関心を示すようになるといいます。
次に、口腔内規格写真を用いた力の影響の見方について解説。
硬組織と軟組織に分け、それぞれの組織にみられる兆候や、他の要因との見分け方について症例写真を用いて分かりやすく説明しました。
さらに、診査ポイントは、舌や頬粘膜の圧痕、骨隆起などにも及ぶという加瀬さん。
上顎に骨隆起がある場合は、口蓋が狭くなり舌の収まるところがないため、舌の挙上がうまくできず低位舌になるケースがあります。
また舌小帯が短く見えているケースでは、舌の可動域が狭くなるため、同様に低位舌になり、ブラキシズムやTCHを起こしやすくなるといいます。
そのため歯科衛生士は、硬組織や軟組織も含め、口腔内だけでなく顔貌や全身的な骨格にも目を向ける必要があると伝えました。
具体的なパワーコントロール方法を学ぼう!
つづいて、加瀬さんが患者さんにアプローチしているパワーコントロールの方法を惜しみなく公開。自律神経のバランスがブラキシズムやTCHを誘発する大きな要素といい、そのメカニズムを解説しました。
自律神経のうち「交感神経」はアクセル側のホルモンで、「副交感神経」はブレーキ側のホルモンといわれています。
交感神経が優位になっている場合は、興奮状態かつ緊張状態のため、睡眠時であれば眠りが浅くなり、昼夜問わずブラキシズムやTCHが起こりやすくなるといいます。
そのほかにも、低位舌を改善するためのトレーニングや、口腔周囲筋を弛緩させるためのストレッチ、夜間低血糖やカフェイン・嗜好品などの摂取で起こる反応、それに対するアプローチ方法を詳しく解説しました。
セミナーでは毎回、加瀬さんが普段実際に行っている方法を解説するので、明日からすぐに使える内容であることがLOLの魅力です。
ブラキシズムやTCHがある患者さんへのアプローチとしては、まずは自覚してもらうことが大切だといいます。今回も、相手の感覚に合わせたアプローチについて、具体例を挙げて説明しました。
視覚的アプローチ
口腔内写真などを活用し、客観的に写真で舌や頬粘膜の圧痕などをみてもらう
聴覚的アプローチ
TCHとは何か、原因、TCHがあるとどうなるのかなどについて言葉で情報を伝える
体感覚アプローチ
頬や頭に手を添えて、閉口筋を触れてもらう。自分で触ってみることで、噛むことで頭や頬の筋肉に力がかかっていることを自覚できる
まとめ
むし歯・歯周病・破折、これらを合わせると歯を失う原因の85.6%を占めます。
これらすべてに力が関与する可能性があるならば、その影響をひとつでも減らす意味は大きいのではないでしょうか。
これまでに力が原因で起こってしまったことを元に戻すことはできませんが、今後のリスク回避にはなります。
だからこそ、パワーコントロールは未来に対する予防なんです!と加瀬さんは熱く語りかけました。
また、それらに付随する頭痛、肩こりなどの全身の症状の緩和につながることもありますし、「そんなこと聞いたのはじめてです。カラダと関係してるんですね。」などと喜んでくださる患者さんがたくさんいらっしゃるという加瀬さん。
私たち歯科衛生士の仕事は「健康教育」と「自立支援」。
「真の予防」を目指し、患者さんの治るチカラを最大化するために、口腔内だけでなく“人を診る”ことが大切といいます。
ライフステージに寄り添いながら長期的な視点でサポートし、患者さんからも医院からも選ばれる歯科衛生士になってください!と受講生に伝え、今回のセミナーを締めくくりました。
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いかがでしたか?
LOLの魅力は、内容が実践的であること。
実際の臨床でどう考えたらいいかに加えて、具体的なアプローチ方法についても具体的に学ぶことができます。
そのため、セミナーを受講したみなさんは、きっと今までよりも歯科衛生士の仕事が楽しくなっていることでしょう。
DH勉強会LOLレポート
サリバコントロール編
シュガーコントロール編
プラークコントロール編
パワーコントロール編