コミュニケーションスキルを極め、説明のプロとして活躍できるトリートメントコーディネーター(TC)。
TCという名称は知っていても、その仕事内容についてはまだまだ知られていないことも多くあります。
今回は、臨床の現場で働くかたわら「歯科TCコミュニケーションレシピBuzz」としてTCを広める活動を行っている原さん、前さん、小紫さんに、普段の業務や資格取得後の変化などを語っていただきました。
このインタビューが、TCの魅力を知るきっかけになればうれしいです。
普段の業務内容
原さん(以下敬称略):毎朝、ドクターとのカンファレンスから1日がスタートします。
それから、初診カウンセリング、処置が終わった後のアフターカウンセリング、セカンドカウンセリング、治療計画の説明、包括カウンセリング、お悩み相談全般…
当院では、自由診療の患者さんのお会計は、TCが個室で行います。
他にも、術者のフォローカウンセリングを行ったり、マニュアルやスライドの作成、経営会議にも参加。採用面接も任せていただいています。
また、医院のファンを増やすために、医院の良さや術者の素敵なところを伝えるなど、ブランディングも担当しています。
医院のことが大好きなので、本当に楽しくお仕事させていただいています!
前さん(以下敬称略):TCの仕事は、初診カウンセリング、ドクターの治療計画の内容説明…セカンドカウンセリングですね。
補綴カウンセリング、食生活、生活習慣などの予防サポートも行います。
また、小児のデンタルサポートといって、お子さんだけ、保護者だけ、親子両方のそれぞれに食育を含んだアドバイスを行っています。
他にも、カンファレンスに参加し、術前や進捗などの打ち合わせ、採用、教育などの人事業務、後輩教育、新しいシステムの対応、受付やアシスト業務も行います。
小紫さん(以下敬称略):当院は3年前にTCを導入しました。それまではもともと歯科助手業務をメインで行っていたので、日によってはまだまだカウンセリングがない時間帯もあります。
その時は患者さんにわかりやすく説明するための資料を作ったり症例をまとめたりしています。
また、当院では初診、補綴、フルマウスの治療計画をアポデントというシステムで管理しているので、その進捗を見ながら中間カウンセリングを行ったり、チェアサイドに顔出しにいったりして、患者さんのモチベーションを維持しています。
その他、定期的にドクターとTCのミーティングを行ったり、治療中に変更があったらその内容を共有してもらいます。
dStyle編集部:ありがとうございます。みなさんの歯科医院には、TCは何名在籍しているのですか?
原:TC自体は私一人ですが、在籍している歯科助手一人ひとりとカウンセリング特訓を行っています。そのため、もしもの時は快く助けてくれて、本当にありがたいです。
前:うちもTC一人です。
小紫:うちも一人です。なので、歯科助手業務をやりつつ、TC業務もやっているという感じですね。
資格取得前と取得後の変化は?
原:私は育休中にTCの導入が決まったので、まずDVDを見ながら自宅でひたすら勉強しました。当時はスタッフにも患者さんにもTCの仕事が認知されていなかったので、結果を出さないといけないと必死でした。
変化としては、自費率が上がってきたのですが、それよりも私が驚いたのは、対症療法メインの患者さんから、メインテナンスメインでこられる方が圧倒的に増えたことです。
結果的にチェアが足りなくなり、医院の建て替えまで…本当に驚きました。
ちなみに、TC業務自体は資格がなくてもできるのですが、実際に資格を取ることで、自信を持って仕事ができるようになりましたし、そういうのって患者さんにも伝わるじゃないですか。
9年の間にさまざまな勉強会に参加しましたが、TCマスターカレッジを受けた後は、なりたい「TC像」がより濃くなりました。
前:私はTCの資格が取れるコースを2つ受講したのですが、はじめに受けたコースは概論的な話がメインで、実践にはなかなか活かせませんでした。
その次に受けたTCマスターカレッジのコースは、即実践型。院内の仕組みづくりまで学ぶことができたので、TCとして目指すべきゴールがわかるようになりました。
TC取得前と比較すると、ドクターからの指示の出方が変わったような気がします。頼ろうとしてくれているというか。
患者さんがここの歯科医院にきてよかった!といってくれることも増えましたね。
小紫:もともとチェアサイドで患者さんと話すのがすごいニガテでした。
患者さんにとっていやな話題に触れてしまったらどうしよ、とか深く考えてしまって…正直、抜歯後の説明で精一杯だったんです。
TCの資格を取ってからは、患者さんと話す機会がすごく増え、雑談が大好きになりました。時間を忘れてしまうくらい話が弾んでしまうときも多くて、もっと話したい!と思えるようになりました。
また、TC取得後は、スタッフが患者さんのことで相談してくれるようになりました。
勤務医の先生についても、はじめは連携がむずかしいなと感じていたのですが、いまは相談しあう機会も増え、繋がれたな、と実感することも増えました。
あと、患者さんの家族がきてくれるようになったのも嬉しいですね。
「主人が家で、小紫さんにいろいろ歯の話聞いたわー、と喋っていて、私も小紫さんに聞いてもらいたいと思ってきてみてん」と、患者さんの奥さんがきてくれたこともありました。
編集部:先生やスタッフさんに信頼してもらえるようになったり、患者さんの意識を変えられたり…すごい変化ですね。患者さんとは、具体的にどんな会話をされているのですか?
原:嫁姑問題の話とか…(笑)お子さんの写メを100枚くらい見せていただくことも。
小紫:うちも同じ!!(笑)新婦さんには結婚式場の選び方聞いたり…そこから、ホワイトニングするなら今からですよ、とカウンセリングに繋げたりね。
前:やるやる!
私は管理栄養士ということもあって、健康相談も多いです。患者さんも4歳から80歳までと幅広いので、ダイエット、食べ物、肌荒れ、血圧…から、歯の話に繋げたり!
TCの資格を活かせていると思うこと
原:歯科医療従事者の「当たり前」は、患者さんにとっての「当たり前」ではない、ということを理解した上で仕事ができるようになりました。
私たちはついつい専門的な言葉を投げてしまう時があります。そうすると、患者さんはキャッチしにくいんです。
恩師の言葉でもありますが、“伝える”と“伝わる”は違う。この追及がTCの永遠のテーマだと考えます。ボールを投げて終わりではなく、逆にボールを投げてもらえる自分になること。
あとは、患者さんの「スイッチ」がどこにあるかを、会話の中で発見できるようになりました。そして、それを押すタイミングというのも、少しずつ掴めるようになってきました。
前:もう、まったく同じ!!先日の院内研修でちょうど「行動変容スイッチ」をどこで入れるか、という話をしたところです。
歯科業界に入って、歯科医師や歯科衛生士などの術者は、そのスイッチを押すためのコミュニケーションの時間が、なかなか取れないと感じました。
原さんの話にも専門的なことを…とありましたが、患者さんにとっては、正しいことがかならずしも「行動変容スイッチを押すきっかけ」ではないんです。
また、正論だけでは人は変わらないということもスクールで学んだため、TCの資格を取ってからは、患者さんに現状をきちんと伝えられるようになりました。「この患者さん、いま先生が言ったこと、わかってないな…?」という時は、後からフォローしたり。
術者と患者さんの意識のすり合わせができるようになったことで、患者さんの未来まで守れるようになったと思います。
小紫:マスターカレッジでは、心理学も含めて学ぶことができます。そのため、目線や行動、しぐさを見るようになりましたね。
防護反応のしぐさが出てる!まずは雑談で気持ちを和らげよう、とか
この患者さん、この言葉ならストライクゾーンに入りそうかも!というように、心境の変動が汲み取れるようになりました。
気持ちがシャットダウンしている時は、何話してもイミないんですよね。
また、いろいろな意見や考えを受け入れられるようになりました。
編集部:ありがとうございます。みなさん、患者さんとのコミュニケーションの量や質が、かなり変わったようですね。それでは、共に働く先生や同僚のみなさんとの関係には、変化はありましたか?
原:ありましたね。スタッフとの会話が増えました!
あとは、後輩育成にも携わっていますが、教える!というよりは、私が大切に考えていることを伝えるようにしています。逆に、後輩から学ぶことも本当に多いです。
前:いまは立場的にも年齢的にも中間層で、むずかしいポジションにいます。
管理する側として後輩を育てる場面もありますが、その際に厳しく当たってしまうところがありました。
TCの勉強をするようになってからは、後輩指導に関しても、「スイッチ」を探すようになりました。
小紫:以前は、プライベートを優先してしまって、仕事は趣味や自分の好きなことに使うお金を稼ぐためにする、くらいにしか思っていなかったんです。
だから、仕事のモチベーションも低くて、歯の話とかにも興味がなかったんです。
でも、TCの資格を取ってからは、仕事終わりやお昼休みなどに、趣味の話だけではなく、歯の話や患者さんの話を相談したりされたり、スタッフとの会話の幅が広がりました。
TCの資格取得のきっかけ
原:私は今年で歯科勤務歴17年目ですが、これだけ長く勤めていると、時々目標を見失うこともあります。そんな時は無性に学びに行きたくなり、院長にセミナーのおねだりをします。(笑)
実を言うと、歯科以外でチャレンジしたいことがあり、去年歯科業界を引退する準備をしていました。もうやり残したことはないなって。でも、未練がないかどうかを確認したくて、TCマスターカレッジを受講しました。
受講すると、TCとしてやりきったと思っていた自分に恥ずかしくなって、まだやるべきことがあると、逆にスイッチが入ったのを覚えています。
この仕事の魅力にまた取り憑かれていったんですよね…
そして最高のTC仲間に出逢えた。特にクセの強いこのお二人…(笑)
前:私、実は歯科業界に入る前からTCの資格を取るって決めてたんです。
前職を退職してから歯科医院に入社するまでに1ヶ月あり、その時に自分の将来のビジョンを考えていました。
その時に、管理栄養士以外にも強みにできることはないか、なにかいい歯科の資格がないかなと探していたんです。
入社して半年くらい、歯科助手業務に専念したあと、理事長先生と院長先生に直談判しました。
当時はお二人とも、TCの具体的な業務を知らない様子でしたが、理念のひとつが「向上心」ということもあり、快く受講を許可してくれました。
小紫:もともと建築事務所で働いていたのですが、その時に建具のプレゼン資料をメーカーさんに渡す仕事をしていました。
その話を院長先生が覚えていてくれて、また院長自身、以前からTCを導入したいと思っていたこともあり、院内で初めてのTCに抜擢されました。
でも、まわりのスタッフだけでなく、導入したいと考えていた院長本人ですら、TCの業務内容や立ち位置がわからず…
そんな時に鈴木誓子先生の1dayセミナーに参加させてもらったんです。そこで、現場で活躍しているTCと初めて会いました。
その時に仕事内容や患者さんとの関わり方を聞いて、「こうなりたい!」と思ったんです。
このスクールに行きたい!と、初めて自発的に院長先生に提案しました。
TCの魅力
小紫:患者さん、スタッフ、なにより自分がうるおう!!
前:そうなんよ、自分にかえってきてるよね。
小紫:そうそう。患者さんのために、とかいっても、ありがとうが返ってきて、それで自分が満たされる。
前:ありがとう貯金箱が貯まるのが一番早いよね。TC業務って。
原:すぐ貯まる!!毎日貯まる。
痛みがあるのにもかかわらず初診カウンセリングで爆笑してくださったり、目の前で涙を流して言いにくいことを話してくださったり。
何より心を開いてくださる瞬間に出逢えることが魅力です。
前:この3人がもし同じ歯科医院で働いていたら…は暑苦しすぎるけど、これだけ熱量のある人が一人いると、医院が暗くなった時も、いやでも明るい方に引っ張られるよね。
引っ張れる人間がいるのも、魅力だと思います。
原:なるほどね。医院の岩盤浴的な?発熱アンド癒し。
前:私は歯科医院の保健室みたいな役割かなって思ってるよ。
原&小紫:うまいこと言うな〜(笑)
原:実際、温度差があるのは当たり前で、それぞれの考えがあるのも当たり前。
それを受容して、スタッフや患者さん一人ひとりに向き合うことができるのも、魅力のひとつですね。
前:小紫さんじゃないけど、いまTCとして活躍している人も、もとは荒くれDAでしたって人、結構多いと思う。
そういう人の方が強いと思うし、理想の先輩って感じ。
小紫:そうですね。自分を認めてないからやさぐれちゃう。TCになって視野が広がった分、受容できることが増えました。よかったです。
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今回お話を伺った3人のTCは、どの方もとても明るく、ざまざまな場面でTCの資格を活かして働いているようでした。
「歯科医院の保健室」と前さんが表現するように、患者さん、共に働くスタッフの双方の気持ちを受け止め、橋渡しとなれる存在のTC。
今後、歯科業界にとってますます重要となってくるのではないでしょうか。