プラークコントロールの目的とゴールを再確認!DH勉強会LOLレポート

3月21日、東京都内にて「DH勉強会 LOL」が開催されました。

こちらは、2017年に歯科衛生士の加瀬久美子さんが設立した歯科衛生士向けのスタディグループ。

「LOL」には「lots of lough=楽しく学ぼう」という意味が込められています。

DH勉強会 LOLでは、“学校では教えてくれない「4つのコントロール」”と題して、歯科衛生士が臨床現場で直面するさまざまな視点を4つのテーマから学ぶことができます。
(参照:歯科衛生士向けのスタディグループ、DH勉強会LOLで4つのコントロールについて学ぶ!

前回までの記事はこちら

サリバコントロール編
シュガーコントロール編

第3回は、プラークコントロールについて。

それでは、当日の様子をお伝えします♪

プラークコントロールの目的とゴールを再確認!DH勉強会LOLレポート

歯科衛生士の仕事に大きく関わるプラークコントロール

DH勉強会LOLではおなじみの、受講生同士による自己紹介は感染予防対策のため残念ながらお休み。

加瀬さんは、LOLの紹介動画の後、今回の勉強会のゴールを紹介しました。

  • 毎日相手にしているプラークのことをもっと知る
  • 骨格・軟組織からプラークコントロールを考える
  • プラークコントロールの目的とゴールを明確にする
  • プラークコントロールが楽になり、患者さんと良好な関係を築けるようになる

ゴール設定があることで、学びのポイントがわかりやすくなります。

講師の加瀬久美子さん
講師の加瀬久美子さん

まずは基本のおさらい!う蝕や歯周病の病因論について

プラークコントロールがなぜ必要なのかを考えるため、う蝕や歯周疾患の病因論からスタート。

う蝕発症の概念として「カイス(Keyes)の輪」や「カリエスバランス」、「生態学的プラーク仮説」について解説しました。

通常、カイスの輪は3輪ともすべて同じサイズで描かれる場合が多いです。しかし、輪の大きさは個人の環境やリスクに応じて異なるため、重なる面積も異なることを理解しておくことが大切だという加瀬さん。

う蝕は多因子疾患であり、唾液分泌量や緩衝能、フッ化物の応用・発酵性糖質の摂取などの口腔環境だけでなく、教育・収入・知識など、社会背景や生活環境も大きく関与することについても説明しました。

また、歯周疾患の概念として、口腔マイクロバイオームやディスバイオシスについて解説。そこには歯周病に関与する細菌だけでなく、免疫や栄養、リスクファクターや感受性など、つまり、受ける身体側が大きく関わっていることを伝えました。

さらに、う蝕や歯周疾患には、国の文化や制度も大きく関与していることを挙げ、加瀬さん自身がスウェーデンやハワイに研修に行った際に肌で感じた経験をシェアし、機会があれば実際に足を運んでほしいと話しました。

ステファンカーブの説明
ステファンカーブの説明

知っていますか?プラークとバイオフィルムの違い

デンタルプラークとバイオフィルムの定義については、日本歯周病学会では類義語に定義されていますが、一般的には同義語として使われることが多いです。

混同している歯科医療従事者も多いとのことで、まずはそれぞれの定義を解説しました。

プラークとは
一般にプラーク(歯垢)と呼ばれるデンタルプラークは、むし歯菌や歯周病菌をはじめとする微生物のかたまり

バイオフィルムとは
微生物により形成される性状・構造。構成細菌がさまざまな情報伝達を行いながら生活しているコミュニティー

そして、歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラークの形成過程や、歯肉溝浸出液の役割、プラークフリーゾーンについても解説。セルフケアのアプローチ方法についても学ぶことができました。

さらに加瀬さんは、口腔細菌の定着時期についても説明。

ミュータンスレンサ球菌の感染力が、本来はとても低いこと、菌の定着には砂糖の摂取が大きく関わっていることに言及し、子どもだけでなく、養育者のシュガーコントロールを徹底することの重要性について解説しました。

さまざまな歯磨剤による硬質レジン研磨試験の結果

つづいては、プラークを蓄積・増加させる因子(プラークリテンションファクター)について。

ここでは、プラークを取り除くことばかりに意識を向けるのではなく、なぜそこに付着しているのか、その原因に目を向け、考えることの大切さについて説明しました。

患者さんがセルフケアしやすいように、プラークリテンションファクターを可能な限りなくすことが望ましいと加瀬さんはいいます。

そして、「日本歯周病学会の歯周治療の指針2015」に掲載されている、プラークリテンションファクターのそれぞれの項目について、どのように考えたら良いかを詳しく解説しました。

  • 歯石や沈着物
  • 不適合修復物・補綴物
  • う蝕・くさび状欠損
  • 歯列不正
  • 歯肉歯槽粘膜部の異常・小帯異常・口腔前庭異常
  • 口呼吸
    (日本歯周病学会指針2015より引用)

その行為に目的と意図があるかを考えよう

さらに加瀬さんは、私たちの施術自体が、プラークリテンションを助長する可能性があることに言及しました。

ポリッシングペーストの例を挙げ、そもそも何を落としたいのか、使用する必要があるのか。もともと医院にあったからというだけではなく、使用する理由と意図を説明できる状態で、ペーストを選択するようにしてほしいと加瀬さんはいいます。

また、補綴物の種類によるプラークリテンションの違いについても解説。

治療の選択肢を提示する際は、その後の手入れや維持のしやすさも含めた提案ができれば、治療における患者さんのメリットは大きくなると説明しました。

ポリッシングペーストの対応表
ポリッシングペーストの対応表

骨格や軟組織からプラークコントロールを考える

次に、骨格と歯のバランスにより、歯肉退縮や疾患のリスクが高まる理由や口腔内所見について解説。

「骨に対して歯が大きい」「歯に対して骨が薄い」といった患者さんにおいて、数十年先のリスクを見据えた提案の仕方について、実際に加瀬さんが臨床で実施している方法を紹介しました。

また、粘膜から考えるプラークコントロールでは、メイナードの分類やバイオタイプについても説明。
(参照:歯周病に関する分類をおさらいしよう!No.1 〜メイナード(Maynard)の分類〜

歯周治療後の治癒形態の違いや、それぞれに適したセルフケアグッズの選択方法を学ぶことができました。

ここまでチェックしよう!プラークコントロールの極意

加瀬さんは、患者さんをみる際、プラークの質や付着部位まで確認することが重要であるといい、実際に臨床で経験した患者さんの例を用いて解説しました。

プラークがなぜそこに付着しているのか?、なぜその質なのか?を確認することで、単に「みがけている」「みがけていない」ということではない、そこに隠れている本来の原因を予測することができるといいます。

ブラッシング圧の伝え方については、「優しくみがいてください」などという抽象的な言葉は伝わりにくいため、具体的に表現する方法や、状況に合わせた指導のポイントも紹介しました。

また、PCRが20%を下回ることを目的にしてしまい、TBIに躍起になる歯科衛生士が多いですが、PCRが良好な方はオーバーブラッシングを疑う目も持っておくべきであるという加瀬さん。

アンダーブラッシングだけでなくオーバーブラシングの両方の視点を持ってほしいといい、歯肉退縮に関しても言及。

炎症性歯肉退縮と非炎症性歯肉退縮の違いや、ミラーの分類を用いた歯肉退縮の分類について解説しました。
(参照:歯周病に関する分類をおさらいしよう!No.2 〜ミラー(Miller)の分類〜

そして、口呼吸や低位舌、糖質摂取など、歯みがき以外の問題がある場合は、歯みがきの話をする前に、その問題点を伝えるべきであるといいます。

セミナー中も質問や相談が飛び交う
セミナー中も質問や相談が飛び交う

患者さんの感覚に合わせたアプローチをしよう

つづいて、患者さんとのコミュニケーション方法として、相手の感覚に合わせたアプローチについて、具体例を挙げて説明しました。

視覚的アプローチ
口腔内写真や位相差顕微鏡、染め出しなど、プラークを可視化し実感してもらう方法。

聴覚的アプローチ
プラークの形成過程やその影響、病気のメカニズムについてなどの情報を論理的に言語で伝える方法。

感覚的アプローチ
片顎だけブラッシングをして、左右のツルツル感・ザラザラ感を舌で感じてもらう、使用したフロスを嗅いでもらうといった方法。

保健指導の際、加瀬さんは「聞き上手になろう」と提言。

いわゆるTBIの際、患者さんに鏡を見てもらい、「ここにみがき残しがあります」などと、術者側から声をかけ、会話が一方的になってしまっている歯科衛生士がほとんど。

加瀬さんの場合、まず、「いかがですか?」と声かけをするそうです。

すると患者さんは、自分の興味のある部分に意識が向いているので、前髪を直しはじめるような方もいるといいます。また、「電動ブラシっていいんですか?」と、鏡を見ずに質問をしてくる方もいますが、それでOK。

まずは、どのくらい自身の口腔に関心があるのかどうか、今なにが気になっているのかなども確認できます。患者さんのことを知るため、認識の違いを理解するためにも、有効な方法であると説明しました。

私たちが正論で説明しても、伝わらないことはたくさんあります。

どうしたら患者さんの心に響くのか、どうしたら患者さんが実践してくれるのか。アプローチの引き出しはたくさん持っていた方がいいと、加瀬さんが実践している方法を惜しみなく紹介しました。

必死にメモを取る受講生
必死にメモを取る受講生

プラークコントロールとは治療であり、予防である

最後に加瀬さんは、「プラークコントロールは患者管理ではなく伴走」と説明。

患者さんそれぞれのライフステージに合わせ、いかに生活に無理なく組み込むか、いかに楽にできるかが、長期的に継続する上で重要であるといいます。

また、多くの歯科医療従事者が「プラークコントロール」と「プラークリムーブ」を混同しているという加瀬さん。プラークコントロールは、歯みがき指導(TBI)だけの話ではないと提言しました。

そこには、患者さんの口腔内への興味や関心、口腔機能、呼吸、栄養、全身状態、内服薬の有無、喫煙状況、職業、家族構成、経済状況、その他さまざまな背景すべてを含んでいるということを伝えました。

そして、プラークコントロールの目的は、「病気を治すこと・病気にならないこと」。

私たち歯科衛生士の仕事は、「患者さんの治すちから・健康になるちからを最大化すること」であり、この使命を持って患者さんと関わることが重要であると話しました。

プラークコントロールとは治療であり、予防である
プラークコントロールとは治療であり、予防である

まとめ

いかがでしたか。

今回のセミナーで、プラークコントロールとは、プラークだけをみるのではなく、その全身状態、さらには取り巻く環境すべてを対象にしていくものだということが理解できたと思います。

DH勉強会LOLの4つのコントロールは、それぞれが単体ではなく、すべてがリンクしています。

今回のプラークコントロール編でも、さまざまな角度からの解説がありました。多くの視点から診ることで、ひとつの事象から得られる情報は無限に広がります。

DH勉強会LOLの魅力は、とにかく臨床ベースであるということと、基本の知識を臨床に結び付けた内容になっていること。

基本をどう活かせばいいのか、臨床で何をみたらいいかという視点が自然と身につくセミナーとなっています。

きっと明日からの臨床が楽しくなるはずです。

LOLのポースで記念撮影!
LOLのポースで記念撮影!

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