歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、この社会になくてはならない存在です。
dStyleでは、今まさに臨床の現場ではたらいている方々にスポットライトを当て、等身大の歯科衛生士ライフを語っていただきました。
このインタビューが、歯科業界で輝くきっかけになれば嬉しいです。
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今回は、歯科衛生士歴26年目の長谷川雅代さんにお話を伺いました。
長谷川さんは、大阪の歯科医院で10年勤務したのち、結婚をきっかけに上京。出産後も歯科医院で勤務するかたわら、感染管理に関する認定資格を数多く取得。
現在は臨床を続けながら、一般社団法人DHマネジメント協会で感染管理の講座を担当し、歯科医院での出張研修なども行っています。
dStyleでも感染管理についての連載を執筆するなど、幅広く活躍しています。
長谷川さんの連載はこちら
感染管理について学びたいと思ったきっかけ
歯科衛生士学校の実習先になっていた歯科医院に勤めていた頃、滅菌や消毒について実習生から、「この方法ってあっていますか?」と質問されたことがきっかけです。
私が学生だった時代は、スタンダードプリコーション(標準予防策)という考えがまだまだ根付いていませんでした。そして、卒業後もそのまま知識のアップデートをせずに10年以上を過ごしてしまっていました。
実習生のおかげで、良い意味で自分の学びへの怠慢に気づき、それ以来、今まで自分が当たり前に行ってきた感染管理にまつわるものすべてを見直しました。
まずは感染管理に関する書籍を読み、学会のガイドラインを熟読。感染管理についての書籍やガイドラインは、医科向けのものがほとんどです。そのため、「歯科に置きかえるとどうだろう?」ということを考えながら読んでいました。
過去の実習生の言葉がなければ、今の私はないです。
現在の業務内容
臨床での歯科衛生士業務に加え、DHマネジメント協会で感染管理の講座を担当しています。
また、依頼があった歯科医院には、3日間の出張研修も行っています。
出張研修では、まず歯科医院のメンバーのみなさんに正しい知識をつけてもらい、現状把握から行っていきます。
そして、「改善点はどこか、改善するにはどうすれば良いのか」などを医院のみなさんと一緒に考え、それぞれの医院にあった感染管理の仕組みづくりをお手伝いしています。
歯科衛生士として臨床現場でも働きつづけることで、現場で起こりうる感染管理の課題が見えてきます。それらの課題について考えていくためにも、臨床を続けていきたい。そう考えています。
取得した認定資格について
第二種滅菌技士の資格を取得しています。こちらは、医科での感染管理対策がメインのように感じますが、この資格のおかげで医科と歯科での認識の違いを学ぶことができました。
(参照:滅菌技師(士)ってどんな資格?)
しかし、歯科での感染管理を深く学ぶ必要があると感じ、つぎに日本・アジア口腔保健支援機構の第二種歯科感染管理者の資格を取得しました。こちらは歯科に特化した資格です。
そして今年は、さらに感染管理についての確実な知識を身につけたいと思い、第一種歯科感染管理者の資格に挑戦し、無事に取得することができました。
第一種歯科感染管理者の試験には、マニュアル提出の課題があります。
これまでの経験をふまえて作成したので、提出したマニュアルが採点を受けて返却された際には、「よくまとまっています」とお褒めの言葉をいただけました!
仕事をする上でこだわっていること
私のこだわりは、使う言葉と感謝の気持ちです。
私は長い間、院内で一緒に働くみんなを違和感なく、「スタッフ」と呼んでいました。
しかし、DH マネジメント協会の「職場で一緒に働くのは仲間なのだからメンバーと呼ぼう」という考えにとても共感し、それからは「メンバー」という仲間を意識した言葉を使うようにしています。
そしてこの数年は、院内のメンバーを「一緒に働く仲間」として、感謝することを忘れないように仕事をしています。
医療はチームで行うものです。
日常の診療の協力体制ももちろんですが、とくに感染管理に携わってからはメンバーの大切さを強く感じるようになりました。
メンバー全員で「清潔にしよう」という同じ方向を向いている。そんな仲間と一緒に仕事ができることに感謝しています。
はたらく中で、うれしかった出来事
歯科衛生士として働いていると、さまざまなシーンで「ありがとう」という言葉をいただきます。
そのひとつひとつが嬉しい出来事なのですが、「あなたのような人に会えて良かった」と患者さんに言われたときや、後輩や研修先のみなさんに「長谷川さんに指導してもらえて良かった」と言われたときが最高に嬉しいです!
また明日から頑張ろう。この仕事をしていてよかった。歯科衛生士で良かったと最高に思う瞬間です。
知識や技術を褒められることよりも、私との出会いを喜んでもらえる。それが歯科衛生士の醍醐味のように感じるのです。
今までの人生の中で、やっておいてよかったと思うこと
歯科医院で働くメンバーを指導する立場になるにあたって、心理学やコミュニケーションにまつわる勉強をしました。
日本NLP協会で学んだ内容は、人を知ることで自分を知るきっかけにもなり、歯科医院での指導だけでなく、講座にも活かされています。
そしてもうひとつは、DHマネジメント協会での講師としての仕事です。臨床の現場以外でも、歯科衛生士として活動できることに感謝しています。
協会での活動は現在進行中ですが、「DHマネジメント協会で感染管理の講座を担当したい」と考え、その道を選んでよかったと思っています。
自分にはできないかもしれない。自信がない。そんな不安な気持ちはありましたが、「やってみたい!」と思ったときに、まずは手をあげて挑戦し、行動したことで、今の働き方があるのだと思っています。
現在進行中の仕事ではあるものの、この経験や働き方を選んだことは、私の歯科衛生士人生で心から「やっておいてよかった」と言えるもののひとつです。
器具へのこだわり
歯科衛生士として働きはじめた頃は、歯周治療や器具に対してまったく興味がありませんでした。
最初に勤務していた歯科医院では、自分専用の器具は持っておらず、私を含めた歯科衛生士3人でスケーラーを共有していました。その頃は、スケーラーなんて「なんでもいい」という感覚だったんです。
自分の器具を持ちたいとも思っていませんでした。
しかし、東京で働くようになって、多くの歯科衛生士と出会うことになります。
その中で、歯科衛生士が歯周治療について楽しく語る姿や、どのようにしたら痛みのない施術が行えるのかなど真剣に話している姿を見ているうちに、歯周治療の大切さや歯科衛生士としてのやりがいについて考えるようになりました。
彼女たちとの出会いが歯周治療を見直すきっかけになったんです。それ以来、あれだけ興味なかったはずの歯周治療に夢中になりました。
歯周治療を行って、患者さんに少しでも良い結果を得てもらいたいと思うからこそ、道具にもこだわりができ、そして愛着がわいてきます。
今、振り返ると「スケーラーはなんでもいい」という感覚を持っていた若い頃の自分が信じられません。
おすすめの器具
アメリカン・イーグル社のグレーシーアクセスシリーズを長年愛用しています。手になじみ、今ではお気に入りで手放せない器具です。
SRPがもっと上手くなりたい!という気持ちと比例して、道具にも興味を持つようになり、デンタルショーに行ってはさまざまなメーカーのものを手にし、多くのスケーラーを試しました。
そしてついにたどり着いたのが、このシリーズです。
ハンドルの太さ、軽さ、握りやすさ。見つけたときはこれだ!と思いました。
もうひとつは、ヒューフレディ社のsub0(サブゼロ)スケーラー。
このスケーラーは、深くせまいポケットへの挿入に困っているときに、歯周病専門医の女性ドクターに教えてもらいました。
ブレードの幅が狭く、形状が小さくできているため、とくに単根歯の施術の際に欠かせないスケーラーです。
その先生との出会いは、歯周治療をさらに深く学ぶきっかけにもなり、良い器具との出会いにもなりました。今でも困ったときには相談に乗ってもらえる、「師匠」のような存在です。
現在取り組んでいること
現在私は、歯科医療従事者が安全に長期間働ける環境や、患者さんに安心した医療を届けるためには感染管理が欠かせないことを知ってもらう取り組みをしています。
講座や出張研修で知り合った歯科衛生士と情報交換ができる場所が必要だと考え、SNS上でコミュニティを作り、週2回の情報発信をしています。
『歯科医院 消毒・滅菌向上委員会』Facebookページはこちら
ここでは、臨床での感染管理のまつわる困りごとや課題についても共有し、解決できるよういつでも相談できる場所として活用してもらっています。
たとえば、
患者さんに持ってきてもらう?それとも医院で用意する?そのときの歯ブラシはディスポ?
などといった、リアルな質問が投稿され、みんなで議論しています。
今後は、感染管理に関心を持って「改善しよう」という意識のある歯科衛生士をたくさん増やしていきたいです。
そしていずれは、その人たちと一緒になって、歯科業界全体の感染管理の意識を変えていきたいと思っています。
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dStyleでは、“歯科で働く希望と可能性をあなたに”をコンセプトに、さまざまなフィールドで活躍する歯科衛生士の方々へインタビューを行っています。
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