ダブルライセンスDH #01「歯科衛生士×歯科技工士」加藤愛さん

日本の「国家資格」にはさまざまな種類があり、歯科衛生士もその中のひとつの資格です。

現在、歯科衛生士として働いている方の中には、歯科衛生士以外の国家資格をもっている方もいます。

ふたつの国家資格を取得するという、エネルギーにあふれた歯科衛生士の方に、現在までの軌跡を語っていただきました。

今回のダブルライセンスDH

PROFILE

2006年
福島県立総合衛生学院歯科技工士学校 卒業
Kデンタルラボラトリー 勤務

2010年
東北歯科専門学校 卒業
一般歯科で勤務

2012年
医療法人社団青松会 ステーションビル歯科 勤務

歯科衛生士歴:9年

ふたつ目の資格を取得しようと思ったきっかけ

歯科技工士として技工所に勤務していたときは、技工物を配達するため、歯科医院に伺う機会がよくありました。

義歯の設計については、歯科医師だけでなく、歯科衛生士の方に相談することも。患者さんの口元の形やコンプレックス、義歯に対する要望など、模型からは読み取ることができないような情報をたくさん提供していただきました。

義歯の作製を行う加藤さん
義歯の作製を行う加藤さん

そして後日、義歯の試適で診療室に伺ったときですが、私が“こういうところ気になってないですか?”と、質問してもなかなか答えてくれなかった患者さんがいました。しかし、歯科衛生士の方が質問すると、その方はなんでも答えてくれたんです。歯科衛生士のコミュニケーション力ってすごい!と思いました。

当時は、歯科衛生士の方に、技工物を作る上で大きなヒントにつながることをたくさん教えていただき、とても助けられました。

そういったことから、患者さんと密に関われる「歯科衛生士」っておもしろそうだなと思い、専門学校に行くことを考えはじめました。

社会人として入学する上で心配事はありましたか?

昼間部だったので、同級生は年下の子たちばかりだろうと思っていましたが、歯科助手経験がある年上の方も数人いました。社会人同士ですぐに仲良くなることができ、友達には恵まれていたと感じます。

一方で、技工士学校であまり学ぶ機会がなかった、化学や英語の勉強については少し心配でした。

また、学費のことなどを考えると、絶対に辞められない!というプレッシャーがありましたね。

それぞれの国家資格を取得するまでに苦労したことは?

国家試験の勉強に関しては、歯科技工士のときの方が大変だったと感じます。

歯科技工士の国家試験には、「石膏彫刻」に加えて、「ブリッジのワックスアップ」または「上下顎総義歯の排列」が実技課題として出題されます。当日まで、ワックスアップと排列、どちらが課題として出題されるかわからないため、彫刻、ワックスアップ、排列の練習をひたすら行いました。

国家試験の約2ヶ月前から練習をしはじめたのですが、同じ時期に筆記試験の勉強と就職活動も行っていたので、ますます大変でした。

歯科技工士学校時代の写真(最後列 右から3番目が加藤さん)
歯科技工士学校時代の写真(最後列 右から3番目が加藤さん)

衛生士学校では、技工士学校で学んだ内容については、復習感覚で学ぶことができました。

とくに実習科目については、1年生のときからアルバイトをしていたため、臨床に即したことや、器具の名称などはスムーズに頭に入ってきました。一方で、衛生士学校ではじめて学んだ、生理学や病理学、栄養学については苦戦しました。

現在の業務内容

通常の歯科衛生士業務に加えて、石膏流しを積極的に行っています

技工所では、すでにできあがった石膏模型を扱うことが多かったため、実際の印象に石膏を流すのは、衛生士学校に入ってからたくさん練習しました。気泡が入らないことを意識して、精度の高い石膏模型を作れるように努めています。

石膏流しを行う加藤さん
石膏流しを行う加藤さん

ダブルライセンスをもっていてよかったと思うとき

患者さんと治療方針を相談するときに、各補綴物の特徴について詳しく説明できることです。補綴物の材質だけでなく、さまざまな補綴治療のメリットやデメリットについても説明することで、患者さんは納得して、治療の選択をすることができます。

また、補綴歯に対するセルフケアの方法を考えるときも、歯科技工士としての専門知識が役立っていると感じます。たとえば、セラミックの補綴物を装着した後は、歯肉がクリーピングしてくることを考慮して、歯間ブラシの使用をあえて控えていただくことがあります。ほかにも、テックの時点でセルフケアがむずかしいと感じれば、最終補綴物を製作する前に、清掃不良になりやすい部分を主治医に伝えています。

このように、歯科技工士としての知識を患者さんに還元できたときは、あらためてダブルライセンスでよかったと感じます。

お気に入りアイテム

メインテナンス中は、基本的にユリーというエアブラシを用いてプラークを除去しています。補綴物を傷つけずに、バイオフィルムを除去することを目的にしているため、歯肉が健康であれば、超音波スケーラーはほとんどあてないようにしています。

また、補綴物のマージン部に付着している細かいプラークについては、フロアフロススーパーフロスなどを使用しています。

私のメインテナンスには欠かせないアイテムです。

左からフロアフロス、スーパーフロス、ユリー
左からフロアフロス、スーパーフロス、ユリー

今後はダブルライセンスをどう活かしていきたいですか?

補綴物は天然歯とは違い、再石灰化しないため、傷がつくと元には戻りません。しかし、メインテナンスで使用しているロビンソンブラシや研磨剤、患者さんがセルフケアで使用する歯ブラシや歯磨剤の中には、補綴物を傷つけてしまう製品もあります。

あたり前ではありますが、メインテナンスに来る患者さんは、口腔内を良くしたい、またはこれ以上悪くなりたくないという気持ちで来院しています。そして、私たち歯科衛生士も、患者さんに良くなってほしいという気持ちで、日々の診療に取り組んでいます。

それを、超音波スケーラーのチップや、粗い研磨剤で補綴物を傷つけ、プラークリテンションファクターを生むことになってしまうのは非常に悲しいと感じます。

私は、メインテナンスの患者さんにはとくに、過剰なPMTCはしないように心がけています。“どうしてやってくれないの?”と患者さんに聞かれることもありますが、傷ができてしまうため、補綴歯にはできませんということを伝えると、ほとんどの患者さんに納得していただけます。

ラバーカップを単体で使用するだけでも、補綴物は傷ついてしまう。そういったことをたくさんの衛生士さんに知ってもらえたらいいなと思っています。

患者さんに補綴物の説明を行う様子
患者さんに補綴物の説明を行う様子