DAからDHへのキャリアチェンジ #02 梅谷有未さん『患者さんの人生を診るために』

現在臨床で活躍している歯科衛生士の中には、もともと歯科助手として働いていた方が数多くいます。

dStyleでは、歯科助手から歯科衛生士にキャリアチェンジした方にスポットライトを当て、その経緯や経験を語っていただきました。

このインタビューが、これから歯科衛生士を目指す方々にとって希望の光となれば嬉しいです。

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今回は、歯科助手歴3年、歯科衛生士歴15年の梅谷有未さんにお話を伺いました。

大学生活を送る中で、手に職をつけたいと思いいたった梅谷さんは、縁あって歯科衛生士に興味を持ちます。

いざ歯科衛生士学校を調べる中で、友人からの「先に働いてみる方が早いんじゃない?」という言葉をきっかけに、まず歯科助手として働きはじめることを決意。

歯科助手業務を通して、歯科衛生士の魅力を改めて感じ、歯科衛生士学校へ入学。学業と歯科助手勤務を両立させて無事歯科衛生士国家資格を取得し、現在は臨床を行うかたわら、さまざまな活動を行っています。

歯科衛生士 梅谷有未さん
歯科衛生士 梅谷有未さん

キャリアチェンジのきっかけ

実は私、もともと歯科衛生士になりたくて歯科助手になったんです。実際に歯科医院で歯科助手として働く中で、より歯科衛生士になりたいという気持ちが高まり、資格取得を決意しました。

こんなふうに思えたのも、歯科助手時代の歯科医院や、そこで働く歯科衛生士の先輩方に出会えたおかげだなと思っています。

その歯科医院は歯科医師、歯科衛生士、歯科助手と業種ごとに業務がしっかり確立していて、当時にしては珍しく、それぞれが独占業務をしっかり行える環境でした。

そのため、歯科助手の私は治療のアシスタントにしかついていませんでしたが、今思うと歯科衛生士と患者さんの関係性や、やりとりなどを毎日見ていて、歯科衛生士の働き方に魅力を感じていたんだなと思います。

そんな中での歯科助手のお仕事も、とても面白かったです。アシスタント業務に対して、いかにムダなく動いて治療をスムーズに進ませるかを考えながら楽しんで働けていました。

結果、歯科衛生士になるために歯科助手をやってみたら面白かったんですよね。歯科助手として働いたことによって、改めて歯科衛生士になりたいという思いが高まりました。

勢いあまって、歯科衛生士学校の入学試験前日に、間違えて受験会場まで向かってしまったこともありました(笑)。

国家試験の結果発表では、歯科助手時代お世話になった院長が、私より早くにチェックしてくれて、私が見るより前に連絡してくれました。本当に嬉しかったですし、感謝しています。

歯科助手をはじめた歯科医院が、その歯科医院だったから今があるなと思います。

歯科衛生士学校時代

2年間、昼間部に通いながら、休日などを使って歯科助手のアルバイトを続けていました。

学費のためでもありましたが、どちらかというとスキルアップのために続けていたんです。学費については、学校に入る前から歯科助手のお仕事と並行して塾の先生やファミレス、スーパーでもかけ持ちし、入学金と1年分の授業料をすでに貯めた状態で入学しました。

学校付属の診療所でのアルバイトも行うなど、多忙な日々ではありましたが、歯科助手の経験は学校での勉強にとても役立っていました。

なので、勉強や実習はまったく苦に感じたことはなく、すんなりついていくことができましたね。特に実習は、スムーズに行えたなと思います。

歯科衛生士学校
学校付属の診療所でアルバイト中の梅谷さん(右から2番目)

そんな中でも大変だったことは、人付き合いの部分。昼間部だからこそ高校卒業後すぐに入学されている方が多いので、クラスメイトはもちろん、担任や教科の先生が年下であることも多く、居心地がよくないと感じることもありました。

もう一つ、大学病院への実習中に、学校の階段から落ちて骨折したことがありました。

骨折が治るまでは椅子に座ることもできず、もちろん実習にも出られなかったため、クラスメイトが実習を終えたあとに1人で受けたことはいちばん苦い思い出です。

歯科助手から歯科衛生士になって

歯科衛生士の先輩が、業務に対して厳しくなりましたね。それまでは未経験の歯科助手という立場でしたが、国家資格をもつ歯科衛生士として見られるようになりました。

そして、実際に患者さんを診るようになると、歯科助手の頃より患者さんとの関係性が近くなり、責任感を持つようになりました。

歯科衛生士になってから就職した歯科医院の院長は、とても厳しい方で、「この患者さんが歯磨きできないのはあなたのせいだ」と言われたこともありました。

悔しかった思いとともに、歯科衛生士はこんなにも責任の大きな仕事なのだと理解するようになりました。

保健指導
保健指導中の様子

現在は、日本歯周病学会認定歯科衛生士の資格取得に挑戦中です。

10年以上、歯科衛生士として働く中で、キャリアが長いだけではなく、「私、こういう資格をもっています」と言えるような証みたいなものがほしいと思ったこと。

そして、今まで患者さんに行ってきたことの確認がしたいと思ったことが、資格取得の挑戦にいたった経緯です。

また、歯科衛生士の私個人として、何かできることが増えるのではないかと思ったことも理由の一つです。

歯科衛生士として大切なこと

歯科衛生士は、知識や技術、責任感はもちろん、人間力を磨き続ける努力が必要な仕事だと思います。

「あなたは新人だけど、歯科医院にいる患者さんはみんな、あなたをプロだと思っているよ。だから不安そうな顔や、できないオーラは出さないこと。そして、もっと積極的にコミュニケーションをとりなさい。」

新卒の頃、先輩に言われた言葉です。

歯科衛生士としてコミュニケーションをとることは、私自身が薄っぺらく、人間力がないと感じているうちは難しいものでした。

それでも、はじめて勇気をふりしぼって患者さんにかけた言葉は、「お酒、呑みますか?」でした。

院長を待っている時間にとっさに出た言葉だったのですが、先輩に「それじゃ呑みに誘ってると思われるよ!」と言われたことは今でも覚えています(笑)。

新卒1年目
DH1年目の梅谷さん(右)

知識をもち、人間力があると、0歳から100歳にまであわせたコミュニケーションがとれます。

そうすると、患者さんに「あ、この人ちゃんと考えてくれている。見てくれている。」と伝わり、次もこの人に診てもらいたいという思いに繋がると思うんです。

どれだけ歯科衛生士業務ができていても、毎回強制的に、磨いてください、こうしてくださいと言っていれば、患者さんはついてきてくれません。

患者さんに行動を起こしてもらうためには、歯科衛生士自身がいろんな知識をもって伝えることが重要なんですよね。

だからこそ、コミュニケーション能力だけではなく、人間力。人として魅力的なことが、とても大切だと思っています。

やりがいを感じるとき

患者さんが心を開いてくれたとき、信頼してくれるようになったときです。そんな方とは、予約時間の半分以上をお喋りに費やすこともあります。

もちろん口腔環境が改善したり、患者さんに感謝をいただけたときもやりがいを感じますが、それ以前に私を個人として認めてくれること、名前を覚えていただけたり、信頼と信用を感じられたときにいちばんやりがいを感じます。

たとえば、ある患者さんは、TBIが終わって「次は磨いてきてくださいね」と伝えると、次の来院時、磨き残しゼロにしたいから!と、1時間半歯磨きしてきてくれたり。

メインテナンスより治療を先にやってほしい!と言っていた患者さんは、口腔内写真を使って保健指導をくり返すうちに、笑顔で前向きにメインテナンスにきてくれるようになったことも嬉しかったです。

あとは、保育園や幼稚園に入学する前のお子さんって、はじめて関わる両親以外の大人が、医療従事者であることが多いんですよね。

以前、むし歯や歯磨きについて教えた子どもたちのお母さんに「梅谷さんがこの子にとって初めての先生でした」と言っていただく機会があり、それは、私の中でとても印象に残っている“やりがいを感じた思い出”です。

TBI
メインテナンス中は患者さんとの会話が止まらなくなることも

ズバリ!DAの魅力、DHの魅力とは

歯科助手の魅力は、歯科医院の顔となり、司令塔となれること。まさに、オールマイティに仕事をこなす内助の功のような仕事ができることです。

歯科衛生士の魅力は、患者さんの口腔内だけではなく、人生そのものに関われること。0歳から100歳まで幅広い年代の方と関わることができ、患者さんの変化をいちばん近くで診られることです。

また、クリニックだけではなく、多岐にわたる仕事や必要とされる現場があることも、歯科衛生士の魅力の一つです。

歯科人生の中での印象深いエピソード

毎日嬉しいことや楽しいことがあるので、改めて選ぶのは難しいですが、新型コロナウイルス感染症が流行るまで毎年参加していた、ミャンマーでの歯磨き指導です。

歯磨き習慣がない国に住む方に、歯ブラシだけで予防の大切さを伝える難しさは、初心に戻り、歯科衛生士本来のやりがいを思い出すことのできる大切な時間だと思っています。

その子たちや、現地の方に毎年会えるのが楽しみでした。

ミャンマーボランティア
ミャンマーでのボランティアの様子

あとは、歯科衛生士2年目くらいの出来事です。その頃は、仕事ができなさすぎて本当にダメダメ衛生士でした。

院長直々に教わっていたのですが、いつも怒られるしダメ出しばかりで、院長が怖くて毎日泣いていました。

そんな状況だったので、後から入ってきた歯科衛生士の方からもバカにされていたんです。毎日「辞めちゃいたいなぁ…」と思っていました。

そんなある日、私をバカにしていた歯科衛生士の方に対して院長が、「梅谷さんは患者さんとちゃんとコミュニケーションをとって、自分で自分の居場所を作ってきた子なんだ!あとから入ってきたあんたが梅谷さんをバカにするな!」とすごく怒ってくれたことがありました。

その時、院長は私のことをちゃんと見ていてくれたんだなと感じ、本当に嬉しくて、今でもその時の院長の言葉を思い出しては、励まされています。

私も当時の院長のように、ちゃんと人を見ることを心がけています。

新卒2年目の頃の梅谷さんと勤務先のみなさん
DH2年目の梅谷さんと勤務先のみなさん

DHを目指すDAへメッセージを!

歯科衛生士は、患者さんの未来を変えられる素晴らしい仕事です!

もちろん歯科助手も、そんな歯科衛生士や歯科医師と同じ想いで働くことができる素晴らしい仕事です。

ただ、歯科衛生士になると、より具体的に患者さんの人生を診ることができると思いますよ!