歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、この社会になくてはならない存在です。
dStyleでは、今まさに臨床の現場ではたらいている方々にスポットライトを当て、等身大の歯科衛生士ライフを語っていただきました。
このインタビューが、歯科業界で輝くきっかけになれば嬉しいです。
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今回は、歯科衛生士歴23年目の落合真理子さんにお話を伺いました。
兵庫県の歯科医院で臨床とスタッフ指導を行うかたわら、全国各地で研修やセミナーを行う落合さん。
日本ヘルスケア歯科学会では、歯科衛生士の認定講習会の指導スタッフもつとめています。
落合真理子さんの紹介ページはこちら(姉妹サイトWHITE CROSSへ)
日本ヘルスケア歯科学会認定歯科衛生士の指導スタッフをつとめる経緯
もともと日本ヘルスケア歯科学会に所属している歯科医院に転職したことがきっかけでした。
そのため、同認定資格を取得する前から活動を行っていて、この認定資格の指導スタッフを担当していたんですよね。
ヘルスケア歯科学会の認定試験は、講義だけでなく実技試験や相互実習があったりと、数多くある認定資格の中でも取得難易度が高いと思います。
しかし、東京と関西を合わせて30人ほどいる指導スタッフは、みんながガッツリ臨床をやっているので、臨床の生きた話ができ、臨床で通用する技術を直接伝えられるんです。
実施する側にとっても、実技試験、相互実習、講義があって大変なんですが、実践に活かせるというのが、この資格の強みではないかと思います。
フルタイムに限界を感じて
変な話、子どもがなかなかできなくて。不妊治療に取り組んだりで結局10年かかったんですよね。
不妊治療をしていたときは本当に大変で…朝5時に起きて病院に行き、2時間待って3分間診療を受けて、体調次第では次の日にもまた行って、という感じで。
それを院長、歯科衛生士、歯科助手が1人ずつという規模の歯科医院に勤めて、しかも担当制で歯科衛生士業務をやるというのは不可能だったんです。
患者さんやスタッフに迷惑をかけたくないけど、歯科衛生士は続けたいと思っていたので、やりたい業務が多少できなくなったとしても、非常勤として採用してもらえる医院に転職することに決めました。
転職先の院長は女性だったこともあり、面接で包み隠さず話しました。そしたら状況を理解いただけて、治療と並行しながら歯科衛生士を続けることができました。
また、そこは治療型の医院で、当初は超音波スケーラーすらない状態でしたが、院長は予防型に変換したいと考えていたんです。
そのため、やり方がわからないという院長に、私の経歴や以前の勤め先で行っていたことをお伝えして、院長と二人三脚で予防型の医院を確立することができました。
プライベートを尊重しつつ、いろいろな仕事を任せていただいた当時の院長には、すごく感謝しています。
現在、歯科衛生士の平均年齢が上がっているので、不妊治療を行う方もこれからもっと増えていくと思うんです。
そうすると、担当制やアポイント管理があるから仕事を諦めるしかない…という方も増えてくる。いろいろな働き方ができるようになればいいですよね。
活動屋号「K’sシャープニング」への想い
正しいシャープニングの啓発を行う株式会社シャープニングの代表であった、故・風見健一氏の頭文字を取りました。
最初に風見氏のセミナーを受けたのは、今から16年くらい前です。
それまでもシャープニングは日常的に行っていましたが、そのセミナーを受けてからはスケーラーの仕上がりが全然違って。
臨床現場で使用したときの手応えがまったく違い、それに衝撃を受けたんですよね。
同時にデータ管理を行っていたこともあり、歯周治療の成果が出ているな、楽しいなと思うようになったきっかけでした。
簡単なやり方だけど成果が出て仕事がすごく楽しくなる。
これは色んな人に伝えていきたいと思い、同社の公認インストラクターコースを受けました。
2〜3ヶ月のプログラムでみっちり指導を受け、晴れて第一号公認インストラクターとして活動するようになったのですが、その後1年足らずで風見氏が体調を崩され、47歳で急逝されました。
その後、風見氏の遺志を受け継いでシャープニングセミナー活動を開始することになり、活動屋号を「K’sシャープニング」とすることにしました。
ここ8年くらいは引っ越しや子育てもあり、個人的にご依頼を受けているという状況ですが、今年からはしっかりやっていきたいと計画中です。
セミナーをすると、途中から受講生の方の顔色が変わっていくのがすごく面白いです。
「そうだったんだ!」とか、「できた!」「おもしろい!」とか、そういう反応がすごく面白いですね。
特にシャープニングの場合は、刃物を研ぐ仕事なので、達成感を感じやすいと思うんです。
歯科衛生士の仕事は、成果がわかるまで時間がかかる仕事が多いですよね。
TBIもプラコンも次回まで日が開かないとわからない、SRPで歯肉がよくなるかは、数ヶ月待ってみないとわからない。
しかし、シャープニングはその場で成果がわかる。成長した!というのがその場でわかるので、講師としてはとてもやりがいを感じます。
仕事をする上でこだわっていること
常に基礎に立ち返ること。
私は下野正基先生が大好きなのですが、先生の著書に『治癒の病理』という本があり、そのサブタイトルが“臨床の疑問に基礎が答える”なんですね。かっこいい〜と思って。笑
自分が臨床で悩むときや、「これ、なんでだろう?」とわからないときというのは、結局は基礎がわかっていないときなんですよね。細菌学や病理学、歯肉の構造や免疫学、解剖学など。
基礎の状態=健康な状態の理解が乏しいから、目の前の患者さんの状態に疑問を感じるんだと、常に感じています。
「これって今どういう状態?」「腫れているってどういうこと?炎症なの?浮腫なの?」
基礎の勉強となると、苦手な方が多いですが、結局は基礎から患者さんにつながっているんですよね。
また、院内研修の仕事では、その歯科衛生士、その医院が何を教えてほしいのかをきちんとヒアリングするようにしています。
セミナーはSRPや口腔内写真の撮影方法など…何でも屋さんみたいになっていますが、リクエストがあれば何でも行いますね。
大々的にセミナーをやるというのも目標の一つではありますが、やはり受講生がピンポイントで求めていることを伝えるには、院内セミナーが効果的だと思っています。
患者さんへの対応力やコミュニケーション力など、個人個人のスキルを見極めて、その子に今何が必要かを考えて研修内容を決めるようにしています。
そのため、医院1箇所1箇所にお伺いして、院内で実際に使っているものや院長の考え方に合わせたセミナーを行っていくというのが、今のやりがいだったりしますね。
働く中で経験した、うれしい出来事
患者さんの価値観や生活背景、行動ステージを把握した上でコミュニケーションを図り、こちらが意図した行動変容が見られたときは嬉しいです。
歯科衛生士の仕事って、基本的には人に何かを教えて、それを実践してもらうことが多いんですね。
患者さんに生活行動を教える、スタッフに歯科衛生士業務を教えるなど、人に何かを教えて、それを実践してもらう仕事。
でも、人の行動を変えるのってすごく難しいことで、私自身患者さんを怒らせてしまったりと、失敗もたくさんしました。
しかし、失敗をくり返すことで、押すところや引くところのさじ加減がわかってくるので、苦手な患者さんというのがいなくなりますね。
初めはちょっと難しいな、と思うような患者さんでも、コミュニケーションを重ねることで自分の大ファンになっていくのがすごく楽しいです。
これまでの人生経験の中で、やっておいてよかったと思うこと
マクドナルドで高校3年と専門学校2年の5年間アルバイトしていたことはよかったです。全国大会にも出場しました(笑)。
マクドナルドでは、接客業務だけでなく、身だしなみや社会人としての振る舞い、接客業として求められること、後輩指導などを学びました。
学生時代は受け身であったことも社会に出れば通用しないこと、お金をもらって働く上での責任、責任があるからこそ感じるやりがいは、アルバイト時代に培いました。
また、大きな組織ということもあり、教育システムが確立しているので、高校生でありながら他の高校生を教えるということもしていました。
トレーニングをする人になるためのトレーニングを行うので、“人に教える”ということは、歯科衛生士になる前から鍛えられましたね。
特に印象に残っている内容は、自分のやり方を全部教え込むのではなく、相手をよく見て、何ができてて何ができていないのかを整理するということ。
できているところは褒めて、できていないところは何がどうできていないのかを、その子の性格を考慮した上で声をかけたり、指導していくということです。
人を教えることの難しさや楽しさ、接客業ならではの空気を読む、場を読む、感情をコントロールするといったことはすごく勉強になりました。
おすすめ器具
菅原歯科精器工業のハンドスケーラーが大好きです。
マニアックですけど、刃が硬い!そしてハンドルがやや重い。
そのため、刃物が根面に触れたときの感触がすごくよく伝わるんですよね。
ストロークして引き上げるときのずずず、といった振動が、鳥肌が立つほど伝わるんです。
私たちは歯肉縁下の、目で見えないところで作業をするので、手の感覚がすごく重要。
特にこのスケーラーは、根面の感触をすごく繊細に手に伝えてくれるので、根面の状態を指で感じながら操作できるのがすごくいいです。
その反面、めちゃめちゃ切れるので、根面への圧力をきちんとコントロールしないと、削り過ぎてしまうおそれがあります。
そのため、セミナーなどで使用する際は、圧力のかけ方を特に指導するようにしています。
若手歯科衛生士のみなさんにメッセージを!
歯科衛生士は一生続けられるやりがいのある仕事ですが、ライフステージや自身を取り巻く環境によっては、全力で仕事に取り組めない時期もあるかもしれません。
しかし、さまざまな人生経験があるからこそ、患者さんの生活や価値観に寄り添った関わりができるのです。
コロナ禍でもできることを見つけて、前向きに毎日を過ごしていきましょう!
dStyleでは、“歯科で働く希望と可能性をあなたに”をコンセプトに、さまざまなフィールドで活躍する歯科衛生士の方々へインタビューを行っています。
ご興味をお持ちいただいた方は、ぜひご応募ください♪