わたしのDHスタイル #31 柿沼八重子さん『固定観念を押し付けない』

歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、この社会になくてはならない存在です。

dStyleでは、今まさに臨床の現場ではたらいている方々にスポットライトを当て、等身大の歯科衛生士ライフを語っていただきました。

このインタビューが、歯科業界で輝くきっかけになれば嬉しいです。

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今回は、歯科衛生士歴22年の柿沼八重子さんにお話を伺いました。

歯科衛生士学校を卒業し、数ヶ月後に転職した埼玉県川口市のかめだ歯科医院に、22年間勤めている柿沼さん。

現在はフルタイムで働くかたわら、左右両利きの歯科衛生士のためのSRP&シャープニング講座を開催しています。

かめだ歯科医院 柿沼八重子さん
かめだ歯科医院 柿沼八重子さん

長く続ける秘訣

歯科衛生士を長く続ける秘訣は、毎日疑問を持って仕事をすることかなと、私は思います。

専門学校を卒業して20年以上経ちましたが、気が付いたらずっと同じ歯科医院で働いています。

しかし卒業直後、3ヶ月間だけ勤務していた医院もあります。そこには先輩の歯科衛生士の方がいなくて、同期と私の新人2人が手探りで働いていました。

次第に将来に不安を感じるようになり、思い切って現在の歯科医院に転職しました。

転職先のかめだ歯科医院は、先輩の歯科衛生士が皆さん優秀で、自分は何もできていないことを知り、ショックを受けたことを記憶しています。

そのような時に、歯周治療の基礎を学ぶ全6回のセミナーに参加したことがきっかけで、歯周病に興味を持ちはじめました。

そこから歯周病に関する基礎の本を何度も読んだり、休日には講習会を受講したり、わからないことは本やネットに戻って調べたりを繰り返しています。

また、当院は医院全体でセミナーや学会に参加したりするのですが、そういう場で優秀な方々に出会うと、とても励みになります。

手の届かないような経歴をお持ちの方々も、よく知るとかなり努力されているんですよね。

そういう方たちに刺激を受けて、「私もこうなりたい」と、ずっと目標にして追いかけていたら、いつの間にか22年が経っていました。

スタッフ全員で学会に参加
医院のメンバー全員で学会に参加

仕事をする上でこだわっていること

特別にこだわっていることがある、というわけではありませんが、患者さんのお話に耳を傾け、柔軟に受け止めるようにしています。

医療を提供する立場上、どうしてもこちらの都合とか理屈を押しつけやすいのですが、一度は患者さんの考えをよく聞きます。

それにより、患者さんの意見を素直に考えられるようになりますし、結果として、治療に必要な情報を患者さん本人から得られるようになります。

そのため、患者さんが先生に聞きにくいことや知りたいことなどを、私たちに気軽に相談してきてくれるような雰囲気を目指しています。

患者さんの話を聞く柿沼さん
気軽に相談しやすい環境づくりを心がけている

働く中で経験した、うれしい出来事

働いていると色々な方と接する機会がありますが、単純に自分の担当した患者さんの歯周病の状態が安定してきた時などは、とてもうれしいです。

また、高齢になり通えなくなってしまった方のご家族から、「柿沼さんに口腔ケアをしてもらいたいと本人が言っている」と聞いた時は、心からうれしかったです。

そして、SRP&シャープニングのセミナーの受講生から、「わかりやすかった」などの感想もいただき、こんな私でも少しは他人の役に立つことができているかなと思えました。

左右両利きのSRP&シャープニング講座をはじめたきっかけ

私自身もともとは左利きなのですが、子供のころに右手を使うよう矯正され、現在では両方使えるようになりました。

歯科医院での機械はもちろんですが、世の中の道具の大半は、右利き用にできています。

私が歯科衛生士学生のころに教員の先生から言われて衝撃を受けた言葉は、「歯科医院のユニットは左利き用なんてないわよ」でした。

左利きでは歯科衛生士になれないのか?など考え、必死で右利きの人と同じくらい右手で実習がこなせるように努力しました。

その努力があり、今では診療においても両手を都合よく使いこなせることができています。

右利きの術者と左利きの柿沼さんが頬側と口蓋側のSRPを同時に行う様子
右利きの術者が頬側、左利きの柿沼さんが口蓋側のSRPを同時に行っている様子

また、当医院は歯科衛生士専門学校の実習先になっていますので、学生が実習にきます。中には左利きの学生もいますが、学校では右手で習っていると言っていました。

以前お会いした、ある歯科衛生士学校の校長先生のお話によると、歯科衛生士専門学校では、共通の指導要領で手技は右手で行うことになっているといいます。

決まりですので仕方のないことですが、利き手でない手を使ってキュレットなどの練習を行うことは、とても難しいことです。

そのため、そんな左利きの方たちは、私がそうであったように、卒業後に手探りで右手を使ったり左手で持ってみたり試行錯誤していることと思います。

そんな新人の方たちのお役に立てればというところから、左利きの人にも教えることができるセミナーをはじめました。

SRPにとって、シャープニングは欠かせない技術のひとつです。

効果的なSRPを行う上で、ひとつのキュレットを大切に育てながら、自分の使いやすいインスツルメントにすることはとても重要です。

超音波スケーラーが全盛の時代ですが、一人でもシャープニングが上手になっていただきたいと思い、セミナーを行っています。

セミナーのお問い合わせはこちら:03-6893-2331

これまでの人生経験の中で、やっておいてよかったと思うこと

諦めずに努力し続けることと、年上の方のお話は素直に聞き入れることかな。

プライベートの友達も含め、いろいろな方たちと接したり、機会があればいろんな場所に出かけたり、誘われたセミナーや会合などは断らないでついていくようにしています。

そうすることで価値観の違う方たちと接することができますので、楽しく、人生のいい勉強になります。

また去年、Min Seiko先生と安生朝子さん企画で、ヒューストンペリオセミナーに参加させていただきました。

セミナーの内容は、テキサス大学ヒューストン校にて、歯周病の基礎から全身疾患のかかわり、最新のエビデンスなどを学ぶことができ、とても充実していました。

さらに、歯科衛生士科の学生実習も見学させていただきました。

そこで印象的だったのが、テキサス大学ヒューストン校では左利きの生徒は左手を使い、実習を行っていたこと。先生は右利きらしいですが、左利きの生徒を一か所に集めて指導を行っていました。

それを見た時にやっと納得できたんです。パーソナリティーを重視するアメリカだからこそ、左利きの人も尊重し、左手で行えるように教えることが必要なんだなと。

研修の最後に、アメリカ歯周病学会の前会長であるMcGuire先生の歯科医院の見学をさせていただきました。

そこで働く歯科衛生士の方々は、自分の個室のユニットを持ち、SRPやメインテナンスを行っていました。

とても貴重な体験ができ、改めて歯科衛生士としての仕事の奥深さを実感しました。

ヒューストンペリオセミナーの参加者と
ヒューストンペリオセミナーの参加者と

おすすめの器具

おすすめは拡大鏡(ルーペ)です。私は現在、サージテルの8倍にライトをつけて使用しています。

以前は2.5倍のルーペを使っていたのですが、ライトが付いていないこともあり、見えにくい部分がありました。

このサージテルを使いはじめた当初は、とてもよく見えるので、クリーニングにいつもより時間がかかってしまいました(笑)。

でも、それまで行ってきたクリーニングはまだまだ不十分だったのだと、ルーペを使うことで気づきました。

サージテル
サージテル

今後挑戦したいこと

より多くの論文を読むようにしたいですね。

患者さんも、インターネットの普及により知識が増えています。そのため、私たちも歯科のプロとしてもっと勉強しなければならないことがいっぱいあると感じています。

それから食育について、栄養学など学んでいきたいですし、挑戦したいことはたくさんあります。

また歯科とは直接関係ありませんが、メディカルハーブにも興味があり、もっと詳しくなりたいと思っています。

たくさんの知識をつけることで、患者さんの体調や今の口腔内の状態にあった情報提供をしてあげられるようになりたいです。

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dStyleでは、“歯科で働く希望と可能性をあなたに”をコンセプトに、さまざまなフィールドで活躍する歯科衛生士の方々へインタビューを行っています。

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