歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、この社会になくてはならない存在です。
dStyleでは、今まさに臨床の現場ではたらいている方々にスポットライトを当て、等身大の歯科衛生士ライフを語っていただきました。
このインタビューが、歯科業界で輝くきっかけになれば嬉しいです。
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今回は、歯科衛生士歴38年の星河晴美さんにお話を伺いました。
歯科衛生士学校を卒業後、いくつかの歯科医院で臨床経験を積んだ後、学校法人アポロ学園 アポロ歯科衛生士専門学校にて専任教員を勤めた星河さん。
現在はスターリバー研究会を立ち上げ、新しい歯周治療「バイオパワースケーリング(BPSC)」を広めるべく、臨床のかたわら各地で講演を行っています。
これまでの経歴
国試が終わってからは、最初の就職が運命を変えると思い、矯正、ペリオ、小児歯科、保存、補綴、障害者治療、幼稚園保健指導のすべてが揃っている診療室を探しました。
20軒以上面接に伺い、やっと見つけたのが、日本大学歯学部小児歯科名誉教授 深田英朗先生の診療室でした。そこで、プロになるためのベースができたと思います。
そこから数軒、開業医の元で臨床を重ねて10年が経ち、アポロ歯科衛生士専門学校で教鞭を取りました。しかし、教育は難題で、自分にはできないと挫折しました。
そのあとはまた臨床一直線。財務省共済組合 横浜税関歯科診療室に15年勤め、今のBPSCのベースができました。
その後、トップアスリートの歯周治療と咬合の勉強のため、名古屋にある医療法人 日本生体咬合研究所に勤務。
独立してからは、BPSCを世間に広く知っていただくため、多くの先生方のご協力をいただき、一般社団法人 スターリバー研究会を起業しました。
今も、会の代表としてセミナーや活動をしながら、数軒の歯科医院をかけ持ちし、臨床を行っています。
バイオパワースケーリング(BPSC)とは
BPSCとは、以前所属していた日本生体咬合研究所で考案した、従来のスケーリングを最大限に発展させた歯周治療のひとつです。
この治療は、口腔から発信する基礎疾患の軽減や歯根膜の活性化、組織の維持、生体機能や脳機能の賦活化を図るために行います。
(参照:鴨井久一監著『口腔ケア歯科衛生士の役割を問う』クインテッセンス出版株式会社.)
主な治療効果は次の通りです。
- 非麻酔下・深部付着物(セメントや歯石)の除去
- 動揺歯の改善、およびそれに伴う歯の圧下
- 歯周組織の血行改善
- 知覚過敏(余剰セメント残留や歯石由来)、咬合痛の改善
- アブセスやフィステル(ペリオ由来)の改善
- 咬合接触の三次元的変化
- 咬合力の回復
- 頚椎および生体の可動域の改善
- スポーツ運動能力の向上
- 頭痛の改善、全身の壮快さ
BPSCでは、4つの診査を行った上で、非麻酔下で上下一括スケーリングを行います。
その後、根分岐部病変へ到達するほどの細さのクレンジングニードルを用いてディープイリゲージョンを行います。
そのためには指紋を使い、指先の感覚を鍛錬して切削能の向上を図り、患者の生体反応を見極める必要があります。
また、術者と患者さんの疲労度を減らすため、下半身を有効に使って全身でスケーリングを行います。
スケーリングにおいて、歯周病変部の改善はもちろん必要ですが、私たち研究会では“機能”の予防を目的としています。
そのため、BPSCは、はじめに咬み合わせの状態を診査することからはじまります。
過去、歯周治療と咬合治療は別々の治療と捉えられていた時代もありました。しかし、歯周組織の崩壊は、正常な咬合感覚の消失につながります。
そのため、十数μmもの薄さの精密咬合紙を使用し、咬頭嵌合位、側方運動、前方運動の3つを記録し、ドクターに伝えるようにしています。
また、プロービングの際にはプラスチックプローブを使用しますが、これは歯周ポケットの深さを測定するだけでなく、すでに破壊された組織と再生組織の幼弱な弾力性を触知するためです。
仕事をする上でこだわっていること
患者さんを診るときは、かならずこの8つ道具を使います。
最近では全身管理のため、これに加えて体温計と血圧計、パルスオキシメーターも使用しています。
精密咬合紙とプラスチックプローブ、クレンジングニードル、スケーラーは、BPSCにかかせない道具です。
3色の咬合紙を使ってスケーリングすると、今まで見落としていた、未病のポケットが発見できます。
予防できること、天然歯を残すことは、歯科衛生士にとって、とても大切だと思います。
スケーラーは、従来の器具よりもさらに深く、しなやかに付着物を除去できるものを求め、10年前にこの「スターリバーバイオスケーラー」を開発しました。
ファイブフィンガーシューズも、全身でスケーリングを行う上で、手ブレを防ぐためにとても重要なアイテムです。
5本の指をしっかり地面につけることで、手ブレを防止することができます。
また、手ブレを防止するために、両手でスケーラーを持っているので、施術中はミラーを使いません。
スケーラー開発のきっかけ
33歳くらいの時に、独立してフリーランスになりました。その際、当時の勤め先で、道具は自分で揃えるようにと言われたのです。
そのため、自分で購入したスケーラーを何度もシャープニングして使用していたのですが、それがとても使いやすくて。
同じような先輩が院内に何人かいたので、みんな“ミニスケーラー”と呼んで大切に使っていました。
シャープニングを繰り返すうちに、歯肉の中に入れても痛くない角度などがだんだん見えてきて、それがスターリバーバイオスケーラーの原型になっています。
スケーラーを作ることとなったきっかけは、日本生体咬合研究所で働いていた際に、研究所の所長に声をかけていただいたのです。所長の先生には、かなりバックアップしていただきました。
このスケーラーは、2014年に特許を取得しています。
完成までには、医師や歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士の皆さんからアドバイスをいただき、スタイリストの方にグリップのカラーリングをお願いするなど、たくさんの方の力をお借りしました。
開発には、多くの時間をかけて打ち合わせや試作を繰り返しました。
その後、研究所の優秀な歯科技工士さんから紹介いただいて、葛飾にある齋藤デンタル工業さんで作ってもらいました。(※ 現在は販売しておりません)
そこは著名な先生がよくオリジナルの道具を作っている会社で、職人さんが手作業で作るので、とても精巧な道具を作っていただけます。
こちらからは「十分にしなる必要がある」「両刃がいい」といったリクエストを伝えて、素材などは職人さんの知識と技術で選んでいただきました。
何度も試作品をいただいて試して…とくに、満足のいく“しなり”を再現するまでは苦労しました。
また、ハンドル部分もこだわっています。グローブをしていてもだ液がついても滑らないように、大きさや感覚などにこだわってグリップ部分に球状突起をつけました。
刃についても、シックルタイプとキュレットタイプのいいとこどりをして作りました。
シックルタイプは鋭利に作られているので、細かいところが確実に取れるメリットがありますが、大きな刃をポケットに入れるのはとても難しいです。
キュレットは歯肉を傷つけにくいけれど、ハンドルが大きくスプーン形なので、ポケット深いところは届きにくいという難点があります。
バイオパワースケーリングは麻酔をしないで施術を行うため、ポケット深いところを傷つけず、歯石は正確に取れるような“尖り”と“丸み”が必要だったのです。
それから、私が衛生士になったばかりの30年前は、補綴の時に使用するセメントやレジンはもっと柔らかく、除去が簡単でした。
しかし時代とともに、セメントもレジンも流動性に優れ、強度も増したため、歯周ポケットの中に残留するようになりました。
スターリバーバイオスケーラーを使うと、今まで届かなかった所に刃先が当たります。
スケーリングは歯石を取るというイメージですが、まずセメントを取らないと、その下の歯石は取れないのです。
働く中で経験したうれしい出来事
先日、諸事情により診療室が閉院して、現在あちこち移動しております。
それなのに、20年以上も私のような人間についてきて下さる患者さんがいらっしゃることに、心より感謝しています。ますます、精進して参りたいと思います。
そして、医師や歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、理学療法士、鍼灸師という医療におけるプロの方が、患者さんになって下さることに、感謝と重責を感じております。
この年になると、年齢的に就活は難しいです。今年、数軒お伺いしている診療室の一軒が、急に閉院しました。
そうすると、なんと患者さんが私の新しい就職先を見つけてきて下さったのです。こんなことは初めてで、本当にありがたいことです。
トップアスリートが、北京オリンピックで金メダルを取ってくれたことも嬉しかったですね。影ながら少し貢献ができたかなと思いました。
それと、未病のポケットを早く見つけて、お手入れをすることで、歯の寿命延長に繋がることが嬉しいです。
今後挑戦したいこと
自分のスケーラーを作るまでは、欧米のスケーラーを使うことが多かったです。しかし、体も手も大きな欧米人のスケーラーは、日本人に合いません。
日本人に合わせて作られたスケーラーであれば、多くの衛生士さんの苦手な根分岐部のスケーリングも操作しやすいと思います。
歯科衛生士学校を卒業して即戦力となるような、教材となるスケーラーを作ることが、私の夢です。
若手歯科衛生士のみなさんにメッセージを!
とにかく、最初の就職先が、本当に大切です。あせらず慎重に職場を決めていただきたいです。
また、歯周治療というと、もちろん口腔内清掃ですが、咬合にも興味を持っていただきたいです。
東京歯科大学名誉教授の石川達也先生が、私の論文を読んでくださった時、「バイオパワースケーリングは、歯根膜再生法だよ」とおっしゃいました。
そして、亡くなる前には、「咬合は、これからだよ!」とおっしゃっていたのです。
それまでは歯根膜のことなど考えてスケーリングをしていなかったため、とても衝撃を受けました。そして、歯科衛生士も咬合を学ばなくてはと、肝に銘じました。
私の白衣には、こんなメッセージが書いてあります。
Occlusion is like a forget-me-not
If you forget it, the result will be that ‘Occlusion is conclusion’.
咬合を学ぶことによって、治療の可能性は大きく広がり、患者さんを守ることができる歯科衛生士になれるのです。
愛知県の歯科衛生士学校の1年生に講演した時に、夢を与えてあげられたかなと思います。あんなに名刺を求められたことはありません。
歯科衛生士という仕事は、本当に素晴らしい職業です!
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dStyleでは、“歯科で働く希望と可能性をあなたに”をコンセプトに、さまざまなフィールドで活躍する歯科衛生士の方々へインタビューを行っています。
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